英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネ
マシーズン2021/22 ミアーズ芸術監督
が初演出、現代に新たな命を得た『リ
ゴレット』

英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2021/22では、ヴェルディの傑作オペラ『リゴレット』を2022年5月20日(金)から上映する。本作はオペラ芸術監督のオリバー・ミアーズが2017年の就任後、初めて演出を手掛けたプロダクションで、2021年のシーズン開幕を飾り、高評価を得たものだ。舞台を16世紀の宮廷から現代の美術サロンに読み替えたミアーズ監督の演出は、物語の持つ普遍性をより際立たせ、濃厚な重みを持つ心理劇をつくり出した。タイトルロールのカルロス・アルバレス、マントヴァ公爵役のリパリット・アヴェティシャン、リゴレットの娘ジルダのリセット・オロペサなどの好演も話題を呼んだ名作を目にする、絶好の機会だ。

■公爵は美術品蒐集家に。現代化により炙り出される作品の普遍的な力
『リゴレット』の初演は1851年。ヴィクトル・ユゴーの「王は愉しむ」を原作に、16世紀のマントヴァ公爵の宮廷を舞台とした物語。主人公の道化師リゴレットは好色かつ暴力的権力者であるマントヴァ公爵に仕えながらも、亡き妻の忘れ形見である一人娘のジルダを世間から隠すように大切に育てているが、世間知らずの純な娘・ジルダは身分を隠した公爵に恋をし、もてあそばれる。怒り心頭のリゴレットは殺し屋スパラフチーレに公爵の殺害を依頼するが……というあらすじだ。
ミアーズ監督はマントヴァ公爵を美術品と美女の「蒐集」を趣味とする、好色な権力者とし、しかも「目利き」という設定まで付けた。つまり金と権力をふるい美術品と「モノ」としての美女を欲しいがまま手に入れられる人物で、目利きであるからこそ、ジルダの内面を含めた美しさにも興味を示すのである。
(c) Ellie Kurttz
幕が開いた冒頭シーンはおそらくカラヴァッジョの「聖マタイの殉教」をモチーフにしたものであろうか、人間が名画を模したコスプレパーティーから始まる。美術サロンの娯楽だ。中央に立つ公爵の、悪魔の象徴たる山羊を思わせる仮面姿が、地下で行われる秘密の怪しげなサロンであることをうかがわせる。生贄となっているのはモンテローネ伯爵の娘であろうか、懐妊中の様子が実に不穏。この生贄の娘を助けに現れ、逆に返り討ちに遭うモンテローネ伯爵をあざ笑うサロンのメンバーたちは16世紀であれば廷臣や貴族たちだろうが、ここでは禍々しいサロンに出入りする胡散臭い一団でしかない。
さらにそのパーティーで道化の「コスプレ」をしているリゴレットもまた、公爵の太鼓持ちのような立場と解釈できるが、職が選べる「現代」であるのなら、嫌ならこの場にはおるまい。そこになにかしらリゴレット自身の毒素も感じられ、それが娘ジルダを人目につかないよう囲い込み、世間知らずにしてしまうという、一種病的な行動につながる印象さえ醸すのである。ミアーズ監督の本作は、舞台を現代に読み替えることでジェンダー問題や権力、暴力など、現代でも問題となっている様々な事象が、生々しく炙り出されてくる。これが物語の持つ普遍性であるとしたら、なんとやるせないことか。
(c) Ellie Kurttz

■舞台に掲げられた絵画使いにも注目。ジルダを演じるオペロサは要チェックの歌手
歌手ではジルダ役のオロペサが、実に可憐。愚かさと紙一重の無垢さ、純粋さとともに、最後は自分の意思で運命を選ぶ「一途さ」を持つ女性を演じあげる、その歌唱力・演技力は注目だ。オロペサは2022年9月に来日が予定されている(旬の名歌手シリーズ2022-III「リセット・オロペサ & ルカ・サルシ 〜華麗なるオペラ・デュオ・コンサート」)ので、その点も含めてぜひ、チェックしておきたい。
(c) Ellie Kurttz
またアヴェティシャンは色気のある艶やかなテノールでマントヴァ公爵役を好演。歌声はもちろん、投げかける視線もまた雄弁で、女たらしの面目躍如というのか、悔しいながらも目が離せない。そして「バリトンにとって『リゴレット』はとても重要な役」と語るアルバレスもまた、娘を思うリゴレットの苦悩を重々しく響かせる。まさに物語の要石といったところだ。
幕間では指揮のアントニオ・パッパーノが自らピアノを弾きながら、作品の魅力を熱く語っている。出演歌手のインタビューもそれぞれに興味深いものがあるので、ぜひそれらもお聞き逃しなく。また舞台ではティツィアーノの名画「ウルビーノのヴィーナス」、「エウロペの略奪」も効果的に使われ、物語に重要な彩を添えている。とくに「ウルビーノのヴィーナス」は公爵の色好みを表すと同時に、ジルダの象徴としても使われている。ジルダが誘拐されたあとは「エウロペの略奪」が用いられるなど、細かい演出にもスタッフの心意気が感じられるのだ。
21世紀に新たな命を得た『リゴレット』、シェイクスピアを生んだ演劇の国・英国ならではの作品だと唸らされるものがある。間違いなくオペラ作品であり、かつドラマ映画としても十分に見応えのあるものだ。21世紀に新たな命を得た名作を、ぜひご覧いただきたい。
(c) Ellie Kurttz
文=西原朋未

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