ジュディ・ガーランド生誕100年記念
(Part 6)スタジオ録音のベスト「ジ
ュディ・イン・ラヴ」~「ザ・ブロー
ドウェイ・ストーリー」番外編

ザ・ブロードウェイ・ストーリー The Broadway Story [番外編]

ジュディ・ガーランド生誕100年記念(Part 6)スタジオ録音のベスト「ジュディ・イン・ラヴ」
文=中島薫(音楽評論家) text by Kaoru Nakajima
レコーディング中のガーランド Photo Courtesy of Scott Brogan
 今年2022年に生誕100年を迎える、ミス・ショウ・ビジネスことジュディ・ガーランド(1922~69年)。Part 3~5では、それを記念して、ユニバーサル ミュージックが6月8日にリリースする10タイトルのCDから、お薦めのアルバムを4作品紹介してきた(下記一覧参照)。今回は、Part 5で取り上げた「アローン」(1957年)に続き、彼女が1958年に発表した「ジュディ・イン・ラヴ」。ブルー・バラード集だった渋めの前作とは打って変わって、上記ジャケットでお分かりのように「陽」の雰囲気が横溢する楽しいアルバムだ。

■円熟期のガーランドを支えた名アレンジャー

「スタア誕生」(1954年)で〈スワニー〉を歌い踊るガーランドの撮影風景 Photo Courtesy of Scott Brogan
 1939年の「オズの魔法使」でブレイク後、「若草の頃」(1944年)や「イースター・パレード」(1948年)など数々のMGMミュージカルに主演したガーランド。ところが過密スケジュールをこなすため、映画会社は10代の彼女に睡眠薬と興奮剤を交互に投与する。結果的に精神を病み、頻繁に撮影に穴を開けた事が原因で、1950年にMGMから解雇された。以降コンサートに活路を見出した後、1954年に「スタア誕生」で起死回生のカムバック。翌1955年に、キャピトル・レコードと契約を交わす。以前より声量は増し、表現力も格段の進歩を遂げた彼女にとって、キャピトル時代は正に円熟期。優れた録音を次々に発表した。
編曲家ネルソン・リドル(右)と Photo Courtesy of Scott Brogan
 「ジュディ・イン・ラヴ」は、ガーランドが1958年5~6月に録音したアルバム。ライヴ盤を別として、本作をベストに挙げるファンも多い。その大きな理由の一つが、編曲家ネルソン・リドル(1921~85年)とのコラボレーションだろう。彼こそは、アメリカを代表するポップス&ジャズ系の辣腕アレンジャー。フランク・シナトラとの仕事が最も有名だが、他にもナット・キング・コールやペギー・リー、エラ・フィッツジェラルドにディーン・マーティンら大物歌手と組み、数多くの名盤を世に送り出した。また、オペラ歌手のキリ・テ・カナワや、ロック&ポップス畑のリンダ・ロンシュタットが、スタンダード・ナンバーに挑戦するアルバムを製作する際、真っ先に名前を挙げた編曲家がリドルだった。
リドルが編曲を手掛けた、リンダ・ロンシュタットのスタンダード・ナンバー集「フォー・センティメンタル・リーズンズ」(1986年)。リドルにとって、生涯最後のアルバムとなった。
■一歩引いた編曲の妙味

 本作はタイトル通り、恋をした喜びを歌う珠玉のラヴ・ソング集だ。巻頭一曲目の〈ジング! ウェント・ザ・ストリングス・オブ・マイ・ハート〉が、まず素晴らしい。これはガーランドが、1935年9月にMGMのオーディションで歌った、彼女にとっては忘れられないナンバーだった。リドル指揮のビッグ・バンドの伴奏に乗って、「あなたが微笑めばメロディーが聞こえる。私の心の琴線は、音を立てて鳴り響くの」と弾むように歌うガーランド。天賦の才とも言える絶妙のスウィング感が見事で、こちらの気持ちも浮き立って来る。
オーディションを受けた頃、13歳のガーランド Photo Courtesy of Scott Brogan
 続くバラード〈捧ぐるは愛のみ〉はスタンダードの名歌。「あなたの誕生日には、ささやかな贈り物さえプレゼント出来ないけれど、愛だけならたっぷりあるわ」と、ペーソスを滲ませて優しく歌う。以降も、スウィング系ナンバーとバラードを歌いまくるガーランドに魅了されるが、やはり特筆すべきはリドルの秀逸なアレンジだ。彼女の明朗な声質とダイナミックな唱法を把握し、手の込んだ華やかな編曲で彼女のヴォーカルを完璧にサポートしている。そればかりか、歌い手と同じレベルで歌詞の重要性を理解していたリドルは、楽曲の持つストーリー性と歌詞の意味がリスナーにきちんと届くように、アレンジのみが突出しないよう留意した。錚々たる歌手たちから、引く手あまたなのも当然だったのだ。
リドル指揮のオーケストラをバックに歌える、いわばカラオケLP(1959年リリース)
■TVスペシャルとの連動企画「ジュディ」
 他には、「愛に見捨てられたと思っていたら、今度こそ本物の恋が訪れた」と高揚感を露わにする〈ディス・イズ・イット〉や、「トランペットを高らかに吹いて。私は愛されているから」と宣言する、コール・ポーター作詞作曲の〈アイ・アム・ラヴド〉など、日本ではあまり知られていない曲も、ガーランドによる小細工なしの直球型快唱で、聴き応えのあるヴァージョンとなった。歯切れ良くスウィングするビッグ・バンドのサウンドも圧巻で、前者では間奏に軽やかなヴィブラフォンのソロを絡めるなど、緩急自在の編曲に唸らされる。
これもリドルとのセッションより Photo Courtesy of Scott Brogan
 今回の生誕100年記念リリースには、もう一作リドルとの共作が含まれている。それが、1956年3月録音の「ジュディ」(日本初CD化)。「ジュディ・イン・ラヴ」と並び、ファン必携の一枚として評価が高い。こちらは、同年4月8日に全米で放映された、ガーランドのTVスペシャル「ジェネラル・エレクトリック・シアター」と並行して企画されたもの。番組は、アルバムからの楽曲を中心に構成された(音楽監督もリドルが担当)。現在この番組は、Youtubeで確認出来るが、ファッション写真で名高いカメラマン、リチャード・アヴェドンをヴィジュアル監修に招くなど演出に工夫が見られるものの、肝心のガーランドの歌に口パクが多く(喉を痛めていた)、生放送にも関わらずリアル感を欠く仕上がりに終わったのは惜しい。

■コンサートの定番となったナンバー
 「ジュディ」も、オープニングの〈カム・レイン・オア・カム・シャイン〉で一気に惹き込まれる。このアルバムの好評を受けライヴでも歌い、番外編VOL.2で取り上げたカーネギー・ホールのコンサート(1961年)では、満場総立ちのショウ・ストッパーとなったナンバーだ。ガーランドは、「誰にも負けないほどの深い愛情で、あなたを愛し続けよう。雨が降ろうと陽の光が照り付けようと」と、ありったけの情熱を込めてヒートアップ。彼女の歌を誘発し、競うように盛り上げるリドルのアレンジも実にスリリングだ。作詞作曲は、ジョニー・マーサー(詞)とハロルド・アーレン(曲)。アーレンは、「オズの魔法使」で彼女が歌い、終生のテーマ曲となった〈虹の彼方に〉の作曲家で、ガーランドが最も敬愛するソングライターだった。

「ジュディ・ガーランド/ジュディ」(UCCU-45039)¥1,980(税込)

 〈カム・レイン~〉以外にも、〈アイ・フィール・ア・ソング・カミング・オン〉と〈ラッキー・デイ〉が、このアルバムをきっかけにライヴ・ショウの十八番曲となる。余程編曲との相性が良かったのだろう。加えてバラード系も充実しており、〈ジャスト・イマジン〉や〈エイプリル・シャワーズ〉、クラリネット奏者ベニー・グッドマンの名演で知られる〈メモリーズ・オブ・ユー〉など、しっとりと情感を滲ませた歌唱も聴き逃せない。余談だがジャケットの写真は、冒頭でも触れた「スタア誕生」のハイライトとなった、約15分に及ぶ大メドレー〈トランクがゆりかご〉の中で、〈マイ・メランコリー・ベイビー〉を歌うガーランドだ。

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