シス・カンパニー『ザ・ウェルキン』
で初めて翻訳戯曲を演出する加藤拓也
に聞く~ジェンダーロールへの先入観
と向き合う作品

シス・カンパニーが、2022年7月から8月にかけて東京・大阪で、ルーシー・カークウッドの戯曲『ザ・ウェルキン』を上演する。演出を加藤拓也が手掛け、翻訳は徐賀世子、出演には吉田羊、大原櫻子、鷲尾真知子、梅沢昌代、那須佐代子、峯村リエ、明星真由美、那須凜、西尾まり、豊田エリー、土井ケイト、富山えり子、恒松祐里、土屋佑壱、田村健太郎ほか、声の出演に段田安則といった実力派が顔を揃える。
日本でも上演されて話題となった『チャイメリカ』でローレンス・オリヴィエ賞最優秀作品賞を受賞した、英国の若手劇作家であるルーシー・カークウッドの2020年に発表された新作の演出に挑む加藤にとって、翻訳戯曲の演出を手掛けるのは本作が初となる。その思いを加藤に聞いた。
シス・カンパニー公演『ザ・ウェルキン』出演者たち

■翻訳劇は言語感覚が違う
――加藤さんはこれまでご自身が書いた戯曲、それから三島由紀夫や安部公房といった日本の作家が書いた戯曲の演出は手掛けてこられましたが、今回初めて海外の翻訳戯曲を演出されるということで、現時点で何かこれまでとの違いや難しさなど感じていることはありますか。
僕の場合、いわゆる現代口語演劇と呼ばれる演劇を書いて演出してきましたが、翻訳劇となるとやはり言語感覚が違うじゃないですか。
――逆に、翻訳劇だからこそ楽しみにしている部分はありますか。
そもそも演劇を楽しんでできるか、というのはまず第一です。あとは俳優の皆さんもいろんな出自の方が集まっているので、一回目の読み合わせは読み合わせになるのだろうか、と思います。早く皆さんの声で聞いてみたいですね。俳優の声で聴くと、当たり前ですが、読んだだけじゃわからなかったことが見えてきたりもするので。
――実際に本読みで音を聞いたときに、よくも悪くも自分が思っていたのと違う音で読まれるということはよくあるのでしょうか。
それは普通にありますが、僕が考えているものと違うものが出たからといって単純にいい悪いに直結はしないですし、物語として必要なニュアンスで面白いものが出てくるのはいいことですよね。

■一般化されていないものに対して偏見の助長にならないようにする
――ルーシー・カークウッドはイギリスの若手劇作家として日本でも何作か上演されてきました。加藤さんから見て、どういう作家であると思われますか。
ドラマの強い作家だと思います。
――どこか加藤さんの作品と似た雰囲気を感じるのですが、そのあたりはいかがでしょう。
ネタバレになるから言えませんが、今作の途中に出てくるある描写に「こういうの好きだな、でも自分では思いつかなかったな」と思いました。
――戯曲を読まれたときはどういった感想を持たれましたか。
女性に深く関わるテーマに対して書かれている作品ではあるので、僕のようないわゆる男性という性別だと自覚している人間がこの作品を立ち上げていくことで、お客さんの見方というのがちょっと変わるかもしれないと思いました。女性の演出家がこの作品をやる場合と、男性の演出家がやる場合とでは、お客さんの中にも異なるバイアスがかかるでしょう。そういった劇場外の部分で、改めてジェンダーロールへの先入観に対して考えを張り巡らせる事ができる所が良いと思いました。
――今作では、殺人罪で絞首刑を言い渡された少女が妊娠しているかどうかが一つ大きなカギになっています。先日まで上演されていた加藤さん作・演出の『もはやしずか』も妊娠がテーマの一つになっていました。妊娠という女性特有の現象であり、生を繋ぐある意味神秘的なことについて舞台で表現する難しさをどのように感じていらっしゃいますか。
前提として自分が経験していないこと、未知のことに対して触れていくというのは、たぶん性別などは関係なく、その個人の問題になるのだろうと思います。なので個人的な問題に対して個人の回答がどう向き合っているのかという視点を持った上で一般化された論理と比べる事はあります。それとは別にいわゆる一般化されていないものに対しての偏見の助長にならないようにする、という気遣いは作品を立ち上げる上で大事だと思います。
――作品の中で12人の女性たちが陪審員として登場し、少女の妊娠の真偽を判定してその結果によって絞首刑になるか刑を免れるのかが決まるという、非常にスリリングなストーリーです。
軸になるストーリーラインはサリーの起こした事件と、妊娠についてですが、それに付随して、女性に押し付けられた役割とか偏見といったものを、登場人物の女性達の目線で、表面化されたりされなかったり、意識できている部分があったり、なかったりする会話劇だと思っています。今のところ。
加藤拓也

■『ザ・ウェルキン』というタイトルの意味するところは?
――タイトルの「ザ・ウェルキン」は英語の古語で「天空」を意味するとのことで、75年ぶりに回帰する彗星を人々が待っているイギリスの田舎町が舞台になっています。非常に意味深なタイトルだな、という印象ですがいかがでしょうか。
いくつか想像してみる事もあるんですが、タイトルが本当に意味するところに関しては、正直わからないですね。
――加藤さんご自身は作品のタイトルをつけるときは、どのようにされているのでしょうか。
作品を書き上げてからタイトルをつけます。一応物語を何かしら形容しているんですよね、という答え方しかできないんですけど。
――今回は女性の出演者が多く、全体的に女性の多い現場になると思います。現場の男女比というのは、意識されるものですか。
本来関係ないですよね、対個人とのお話なので。男だから女だからではなく、どんな人なんだろう、ということは思いますけれども。
――実際に現場で作品作りをしている中で、男女差を感じたりすることはありますか。
あまりないですけど、性別が違うことによって気を使わなきゃいけない部分というのは確かに存在しているので、そういったところに配慮しつつも、基本的には人間と人間の関係性を築いていけるように、と思っています。
――メインの役となる吉田羊さんと大原櫻子さんに対して現時点で抱いている印象を教えてください。
羊さんはドラマ「きれいのくに」(NHK)でご一緒しまして、その本読みのときに、いろんな引き出しを持っていて、周りをよく見て非常に柔軟にその場に合わせていらっしゃるな、という印象でした。大原さんはご一緒したことはないのですが、舞台を拝見したイメージで言うと、とても表現力の高い方だと思います。
――若手の方からベテランの方まで、様々な俳優さんが集結していてどんな座組になるのか楽しみです。
このメンバーを見て「大変ですね」とか言われることもあるんですけど、人間関係の構築というのは基本的にはどんなメンバーであっても大変なことだと僕は思うので、大変なのは当たり前ですねという感想しかないですし、みんなで面白いものを作りましょうということで集まっているメンバーなので、その目標に向かってやっていけたらいいんじゃないかな、という感じですね。つまらなくしてやろう、と思いながらやる人は多分いないと思うので。そういう人がいたら本当に大変だなって思っちゃいますけど(笑)。
――シス・カンパニー制作で演出するのは『たむらさん』『友達』に続いて3作目になりますが、カンパニー自体に対する思いを教えてください。
いやもう、北村プロデューサーの仰せのままに、みたいな感じで(笑)。キャスティングについてもプロデューサーにお任せしている部分が多くて、それはそれで普段自分がやっているのとは違うスタイルで、そこに自分がどう作用するのか、というような楽しみ方があるのかなと思います。
加藤拓也

■稽古に際して準備する「演出ノート」とは?
――これからお稽古が始まるまでの間、加藤さんはどのような準備をして稽古に臨まれるのでしょうか。
今ちょうど準備期間ですが、資料を作ったりとか、自分の演出ノートを作っているような段階ですね。
――演出ノートというのはどのようなものなのでしょうか。
稽古のときにそれを見ながら演出をしたりするのですが、例えば自分が初めて本を読んだ時の印象や気づいたことをメモしたりとか、何でもいいからメモしているノートです。
――そうした演出ノートはどの作品のときにも作られるのですか。
いや、他の人の本のときだけですね。自分が書いた本は基本的に覚えていますから。他の人の本だと忘れてしまうので、忘れないようにメモしているんです。
――演出ノートは稽古中にはどんな形で活躍するのでしょう。
それなりに大事だったりしますね。ある程度、分解した式を残しておかなきゃいけないと思うので。逆に言うと、その式を説明すると、解の方に俳優さんを持って行くことができるところもあると思います。
――演出ノートはお稽古が始まってからも書き足されていくのですか。
書き足していったりもしますね。言ったことを忘れちゃうんで(笑)。上演台本を作る過程とかもメモしています。まあ、終わったらすぐ捨てるんですけど。
――そうなんですね! 取っておいたりはしないんですね。
しないですね。本棚がいっぱいなので入れるスペースがなくて。
――(笑)では、例えば再演されることになった場合には……
きっと困るんだと思います。
加藤拓也

■自分が面白がれるものをやっていけたらいい
――加藤さんの舞台を見て演劇を目指す方もいるという、今や若手演出家の筆頭と言っても過言ではない存在だと思います。
いやいや、僕を目標にして大丈夫かな。
――舞台のみならず映像など幅広くご活躍されている姿は、十分目標に値すると思います。
どうなんですかね、とりあえず自分が興味を持てる面白いものを一つずつやっていってる、というイメージですね。どうせしんどいんだったら、自分が興味持てて楽しくやれる方がいいかな、って思います。
――今後も変わらず、幅広く活動していくことになりそうですか。
そうですね、面白がれるものをやっていけたらいいなと思いますね、本当に。僕はたまたまそういう環境に恵まれているというか、ここに至るまではもちろんいろいろありましたが、最近は演劇やったり映画やったりドラマやったりっていうすべての環境において楽しくやらせてもらっているので、これからもそういうふうにやっていけたらいいなと思います。
――海外戯曲に挑戦することも増えそうですか。
やるかもしれないし、やらないかもしれないですよね。僕も含めてみんな楽しい方がいいじゃないですか、基本的には。だから、そう思えるようなものだったらやるかもしれないですね、何であれ。
――加藤さんがお仕事を選ばれる基準というのは、やはり「楽しめるか」というところなんですね。
自分もみんなも楽しいということは大事ですよね。今回の作品もみんなで楽しんで作っていけたらいいなと思っています。
――最後に今作を楽しみにしている方へのメッセージをお願いします。
一つの事件を巡って、生きるか死ぬかを妊娠という能力に授ける会話劇です。ぜひ見に来てください。
取材・文・インタビュー写真撮影=久田絢子

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