10年目で幕を閉じる「break a leg」
努力クラブ×プロトテアトル×岩崎正
裕が語る。「10年間若い劇団と文化を
支え続けたのは、この劇場の大きな誇
り」

昨年閉館問題が浮上し、日本各地の演劇人が存続希望の声を上げた、兵庫県伊丹市の公立劇場「アイホール」。その結果伊丹市からは、施設の当面の存続は承認されたものの、予算が大幅にカットされ、多くの事業の継続が難しくなってしまった。若手劇団育成企画「break a leg」(※英語で「公演の成功を祈る」の意味)も、開始から10年の節目で、ファイナルを迎えることになった。その幕引きを飾る劇団は、京都の「努力クラブ」と大阪の「プロトテアトル」だ。努力クラブ代表の合田団地、プロトテアトル代表のFOペレイラ宏一朗、そして同企画選考委員で、3月末までアイホールのディレクターを務めていた岩崎正裕(劇団太陽族)の会見が行われた。
「break a leg」選考委員の岩崎正裕(劇団太陽族)。
アイホールを利用したことがない若手を対象とし、これまで全国の19団体が登場したbreak a leg。岩崎は本企画の内容について「利用劇団が少ない4~6月に、若い劇団の登竜門として使ってもらおうということで立ち上げました。これを機に若い劇団やユニットが育つよう、施設利用料などを免除するという条件で、続けてまいりました」と、改めて説明。そして両劇団の推薦理由について「努力クラブは、描かれる世界はめちゃくちゃネガティブですが、『人間ってこうやな』っていう温かみもあるのが魅力。プロトテアトルは、対話が実に巧みに練り上げられており、対話劇のお手本と思えるぐらいの団体」と語った。
努力クラブ『誰かが想うよりも私は』公演チラシ。
2011年に旗揚げした努力クラブは、新作『誰かが想うよりも私は』を上演。合田は「心の内側にある、なるべく人目に触れさせたくないものを、舞台上に乗せた上で、それを肯定したい。僕が書くのは恋愛のお芝居が多いんですが、今回は、付き合ってる人がいるのに他の人を好きになった女の子が、いろいろな人を傷つけていくという話を、一対一の対話を繰り返す形で見せていきます。自分自身を託したキャラなので、徹底的にコキ下ろすことできるし、みんなにそれを笑ってもらえたらいいかなと思います」と構想を明かす。
合田団地(努力クラブ)。
芝居を作るモチベーションを「学生の頃の苦しかった気持ちを思い出して“どうすれば自分は救われていたのか?”というのを考えて作ってますが、まだ全然解決されてません(笑)」という合田。アイホールに関しては「役者として立たせてもらったことがありますが、自分の装飾的な部分がどんどん剥がされて、ボロボロの服でたどり着くみたいな、その痛々しさが素敵と思える場所。今回は、なるべく劇場を小さく使うことで、自分たちの小ささみたいなことを思い知りたい」とのことなので、いろんな面で“痛々しさ”を強く感じさせるような世界となりそうだ。
プロトテアトル『レディカンヴァセイション(リライト)』公演チラシ。
2013年結成のプロトテアトルは、2019年に上演した密室会話劇を改訂した『レディカンヴァセイション(リライト)』を上演。「“会話劇って何だろう?”という思いから作った作品。地震で崩れたビルの中にたまたま居合わせた人たちが、お互いの情報が一切わからない時に、どのような言葉を交わし、また交わさないのか? を考えて創作しました。公演後にコロナ禍となり、リモートやマスクなどで、相手と顔を突き合わせて会話するのが難しい時代になったのを踏まえて、今回はもっと会話が続くように変えました。タイトルの『リライト』は、作品に再び光を灯す(re-light)という意味もあります」と説明。
FOペレイラ宏一朗(プロトテアトル)。
自分の表現活動を「ポルトガル人の血が入っている(ちなみに名前も本名)ことで“自分はどういう人間か?”を常に考えていましたが、作った作品によって自分の価値観や思ってることを共有したり、もしくは反射して返ってくるのが楽しい」と語るペレイラ。アイホールについては「僕にとっては、一番の演劇の聖地。劇場のタッパの高さを活かしきれないと作品が負けるというか、お客さんにフィットしないんじゃないかと思うので、この縦長の空間を活かした舞台にしたいです」と、意気込みを交えながら語る。「極限状態の会話」を追求した世界が、どのような形でアイホール仕様になるか注目だ。
また岩崎は「break a leg」について「紹介すべき団体がいっぱいいて、10回も続いたのはすごいことだし、関西の底力だと思う。若い人に“ちょっと遠い”と思われていたアイホールを、未来につないでいってもらえれば……ということで企画された事業なので、これこそ続けていかなきゃいけないと私は思っていますし、これだけ若手の劇団を紹介して、文化を支えてきたことは、伊丹市のこの劇場の大きな誇りだと思っています」と意義を語る。
(左から)合田団地(努力クラブ)、FOペレイラ宏一朗(プロトテアトル)。
そして、13年間務めていたディレクター職を辞すことになった、現在のアイホールについて「結果的に劇場は残ったけど、事業企画のための予算は一握りしか残りませんでした。(全国の劇団の)交流の交差点として今も機能していますが、これから(劇場利用料を抑えられる)共催(公演)がなくなると、どの劇団もかなり厳しくなるだろうと思います。単なる“箱”になってしまったら、どこまで続くのか」と、今後の険しい道を予測する。
続けて「今のアイホールは水がなくなって、底の見えてしまった池です。そういう意味では、今回選出された2団体は、最後に残った水滴であり、最後のきらめきになってほしい。良い形で、良い作品を見せていただければと思っています」と、2劇団にエールを送った。
また、昨年から選考委員に就任したものの、これが最初で最後の仕事となってしまった俳優・三田村啓示も、飛び入りのような形で会見に参加。「一回でハシゴを外されたのは大変残念だけど、自信を持って送り出せる2団体を選ぶことができて、ホッとした気分です」と誇らしげに語るともに「稽古場レポートや劇評といったコンテンツも、今までより充実させていきたい。ぜひチェックしていただきたいし、たくさんのお客様に来ていただきたいと思います」と呼びかけた。
「令和4年度 次世代応援企画 break a leg」告知チラシ。
2022年度に予定された多くの企画が立ち消えとなる中「すでに決定していた参加団体の、共催を外すべきではない」と強く訴えて、例年通りの環境での開催を貫き通したという、今年度のbreak a leg。努力クラブとプロトテアトルには、自分たちのステップアップだけでなく、企画の有終の美を飾らねばならないというプレッシャーもかかるだろう。しかしどちらも良い意味でふてぶてしさのある団体だけに、それを負担ではなくエンジンにして、まさに最後の大きな輝きとなるような舞台を見せてくれる……ということを期待したい。

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