カーネーション直枝×長澤知之×シュ
ノーケル西村 『貴ちゃんナイト』で
実現した三者三様の弾き語りライブ

y’ s presents『貴ちゃんナイト vol.14』 2022.5.21 下北沢CLUB251
ライブやフェスが「帰ってきた」というような表現が目につくことも増えてきた今日この頃だが、まだ全面的には同意しかねるのが正直な所である。なんの気兼ねもなくふらっとライブハウスに足を運ぶにはハードルを感じる人も多いだろうし、ライブの醍醐味のうちフィジカル面に関しては制約も多い。ただ、眼前で鳴り出した音楽にいきなり胸ぐらを掴まれてガツンと食らったり、観ているうちに“好き”の範囲が拡張されたり、あらためて自分の音楽愛にまで気づかされたり。そういった方面でのライブの魅力を存分に堪能することはできる。5月21日(土)に下北沢CLUB251で開催された『貴ちゃんナイト vol.14』 。
もっとも、『貴ちゃんナイト』はこの2年もなんとか中止は免れてきたイベントである。2020年はコロナ禍が表面化する直前の開催であり、2021年もディスタンスや換気など課題をクリアしやすいビルボード東京で行われた(還暦記念の特別回だったからというのもある)。それでも今回、会場が“ホーム”251に戻ったこと、フルキャパシティには遠いけれど寂しく見えないくらいにお客さんを入れられたことは、このイベントにとって大きかったはずだ。かつてと同じように、バーカウンターには出演者にちなんだオリジナルカクテルを注文するお客さんたちがいて、BGMとして出演者のセレクトした楽曲(今回は長澤知之によるもので、ベックやマニックスなどのチョイス)が流れている。主催のラジオパーソナリティ・中村貴子(以下、貴ちゃん)による高ぶるテンションダダ漏れの前説から始まるのもそうだ。
さて。ここからはライブの中身について触れていくため、これから配信のアーカイヴを観る予定でネタバレしたくない方は、視聴後にお読みいただきたい。
西村晋弥
トップバッターの西村晋弥(シュノーケル)は、登場するなり「後ろの方、見えないですよね」とマイクの設置位置を変え、急遽スタンディングでのライブに。実際リハまでは座っていたところを、客席の様子を見て変更した判断は生のライブならではだろう。柔和で気負いのない雰囲気からそのまま一曲目の「誓い」、シュノーケルの代表曲である「波風サテライト」と繋ぐ立ち上がりは、2000年代のギターロックの核心のような疾走感とキャッチーなメロディが、懐かしくも瑞々しく響く。力強くコードを掻き鳴らし、地声に近い成分を残したまま張り上げる高音は迫力十分で、同時に歌そのものがグルーヴしていく心地よさもある。なお、全組弾き語りスタイルのこの日、「歌がグルーヴする」感覚はどのシンガーのパフォーマンスからも肌で感じられた。
西村晋弥
中高生の頃に聴いたラジオがミュージシャンを志す原点であるとした上で、「まごうことなき貴子チルドレンです」と告白した西村(ちなみにドラムの山田雅人も同様らしく、この日も観に来ていた)。ドラマを監督したり役者として1人舞台に出演したりとマルチな活躍も話題に上っていた彼が、自分で撮った映画の主題歌なのでタイアップだと言い張っている──というユーモラスな紹介から歌ったのは「Love Me Shelley」。ミドルテンポに乗せ、優しい泣きメロが染み渡る。スタンディングでフロアを埋め、曲間の度に惜しみない拍手を送るオーディエンスに、「この光景にずっと泣きそうです」と語りかけてから、最後に「君に響け」を披露。アコースティック演奏であることを忘れるくらいに場内を温めてバトンをつないだ。
長澤知之
貴ちゃんが長らくこのイベントに呼びたかった、けれどどういう組み合わせが良いかわからなかったと明かしていた長澤知之は2番手で登場。「どういう組み合わせが良いかわからない問題」も頷けるくらい、個性的かつ求心力の高いアクトを見せてくれた。「引きこもりの曲を2曲やります」と告げての立ち上がりは、歌なのかラップなのかリーディングなのかという言葉の連打に、高速で爪弾くギター、ファルセット混じりの歌唱で畳み掛ける「ボトラー」。荒々しく加速しながらシャウトするショートナンバー「あああ」。かと思えば、「マカロニグラタン」では焦点を絞り込んだ詞世界を、繊細に表現してみせる。時折ある種エキセントリックにも映るそのスタイルは、魂の揺らぎをそのまま身体から解放しているかのようだ。
長澤知之
西村との出会いは20年ほど前、福岡にある「照和」というライブ喫茶であること、憧れの存在である直枝には10年前に話しかけてからの付き合いである、といったエピソードを振り返りつつ、2人との共演を喜ぶ長澤。西村との出会いよりもう少し前に生まれたという「15の夏」はシンプルな演奏と即興で言葉を乗せているような歌で届け、ブルースを思わせる「されど木馬」ではがなりたてるような荒々しい歌唱も交え、鬼気迫るステージを展開していく。どの曲にも、まるで今思い浮かんだ言葉をダイレクトに投げかけているような、真に迫る生々しさがあるのがすごい。そしてその極致と言えるような「蜘蛛の糸」を、繊細なアルペジオと叙情的な歌でもって届けきって、全8曲のライブを終えた。
トリを飾るのは直枝政広(カーネーション)。その風貌や纏ったオーラゆえか、スッとステージに現れてセッティングを始めるだけで場内の空気が変わったことが手に取るようにわかる。そこから一曲目の「センチメンタル」が始まると、張り詰めたその空気を思わず呑み込んでしまった人も多かったはず。甘く色気をまといつつどこかスモーキーなその歌声は、声色の変化やブレスの入れ方まで楽器のように鳴ってグルーヴしている。訴求力、表現力共に圧巻で、こうなるともはやライブにおいて騒いだり暴れたりできできるか/できないかということなど問題ではなく、ただ聴き入るしかない。一転してMCでは、人に「ちゃん」付けができないタチだと明かし、『貴ちゃんナイト』のタイトルに一石を投じて笑いを誘う。
直枝政広 / 松江潤
コード感も相まってメランコリックな「マーキュロクロムと卵の泡」、しっとりとしながらソウルフルに歌い上げたミドルバラード「ANGEL」と曲を重ねるごとに、芯の強さとほどよい枯れ感のある歌と、円熟味を感じさるアコギのサウンドで魅了していく直枝。さらに最新作『Turntable Overture』からの「SUPER RIDE」を終えたところで、所縁の深いギタリスト・松江潤が呼び込まれた。松江は完全に観に来ただけのつもりが、急遽ステージに上がることになったのだそうだが、「コズミック・シーのランチ・タイム」でアコギ2本のプレイが織りなす阿吽の呼吸はさすが。直枝曰く「ニューウェーヴの人がギターを持ったみたいな感じ」という松江のギターには賞賛の拍手が送られた。続く「JUICY LUCY」のひときわリズミカルでポップなその音に、観客たちも思い思いに音に身を委ねながら、『貴ちゃんナイト vol.14』本編はここで終了。
西村晋弥 / 長澤知之
アンコールに応えてまず登場した西村と長澤は、「(直枝のライブの)後でやれること何があるかな」とボヤきつつ、シュノーケルのデビュー曲で長澤が出会った当時から好きだという「大きな水たまり」と、長澤の「マンドラゴラの花」を2人で歌う。いずれも、持ち曲ではない方が1番をフルで歌うという、付き合いの深さが窺える仕上がりであった。そして直枝を呼び込んで最後に演奏したのは、カーネーションの「60wはぼくの頭の上で光ってる」だった。長澤と直枝のギター演奏でゴキゲンにドライブするファンキーなロックナンバーを、西村が「60w」と書かれたフライパンをドラムスティックで叩くことでカウベルのような音を出してコミカルに彩る。最近では珍しくなってしまった対バン形式ならではの特別感を味わえる光景だ。演奏を終えると、「楽しい!!」と叫びながら登場した貴ちゃんを、収容人員からするとビックリするくらい大音量の拍手が出迎え、記念撮影をしてから出演者の送り出し。こうして『貴ちゃんナイト vol.14』は締めくくられたのだった。
『貴ちゃんナイト vol.14』
全組アコースティックというのは、コロナ禍でなければ無かったかもしれない。ただ、そうでなければこの3人の組み合わせは実現しなかったかもしれず、少なくともこの日のライブで味わった感動や得た感情は生まれなかった。やはりライブは一期一会の、現場でしか起こらないあらゆる事柄の集合体であり、その現場に流れる空気が作っているもの。その点でいえば、この251で観る『貴ちゃんナイト』は2019年以前となんら変わりなかった。「ライブが」なのか「僕が」なのか、あるいはその両方なのか、「帰ってきた」。そう思えた。

取材・文=風間大洋 撮影=俵和彦

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