尾上右近がどろどろの恋愛悲劇とTHE
ジェントルマンの時代物に挑む 『研
の會』制作発表レポート

尾上右近が、2022年8月22日(月)、23日(火)に第六回『研の會』を開催する。演目は『色彩間苅豆(以下、かさね)』と『実盛物語』。会場は国立劇場 小劇場。『かさね』は、文楽人形とのダブルキャストを予定している。 配役は次の通り。
一、色彩間苅豆
【22日昼・23日夜】かさね/尾上右近、与右衛門/吉田簑紫郎
【22日夜・23日昼】与右衛門/尾上右近、かさね/吉田簑紫郎
ニ、実盛物語
実盛 尾上右近
瀬尾十郎 坂東彦三郎
小万 中村壱太郎
太郎吉 坂東亀三郎
葵御前 尾上菊三呂
小よし 中村梅花
九郎助 片岡市蔵
■お待たせしすぎたかもしれません!
3年ぶり6回目、右近のセルフプロデュース公演だ。
「前回の開催より3年の間、色々な事がありました。『研の會』は自分がやりたくて自分でやる自主公演。みんなを引き連れ、巻き込み、今できる限りの情熱をぶつける自己研鑽の場。3年の間に培ったもの、たまったものを全力で発散したいです。『かさね』も『実盛物語』も非常に物語性があり見どころ満載です」
3年間で自身の成長に手応えを感じられることもあったのではないだろうか。
「勝ち負けの世界ではなく点数がつく職業でもないので、『勝った』と思うことはありません。でも、負けた時はハッキリと分かるものです。それと同じで、成長の手応えを感じることはないのですが、手応えがない時ははっきりと分かります。その意味で、この3年に成長した部分もあると思います。『研の會』でも手応えがなかったことは一度もありませんので、何かを掴み続けてこられたのだと思います。待っていてくださった方がきっといると信じ、お待たせしました! お待たせしすぎたかもしれません! そんな思いでやらせていただきます」
■どろどろの悲劇のラブストーリー『色彩間苅豆』
「どろどろのラブストーリーで悲劇の物語」と紹介する『かさね』。清元が演奏する作品だ。主人公は、大人の男の与右衛門と年頃の娘かさね。男女の仲にある2人を、昼夜で役を入れ替えて両方演じる。
「かさねも与右衛門も、どちらもやってみたかった。どうすれば2役同時にできるかは、長らく頭の片隅で考えていました。そんな中、文楽の人形遣い、吉田簑紫郎​さんにお目にかかる機会がありました。文楽と歌舞伎で何かコラボできないか。実は『かさね』をやりたいと思っていた。文楽人形と歌舞伎俳優のパフォーマンスにしたら面白いのでは? と」
つまりダブルキャストの相手は、簑紫郎による文楽人形。与右衛門とかさねをスイッチして2回ずつ計4公演の上演となる。
「人形と人間でやろうと盛り上がった勢いで決めたものの、今までにない形の上演です。また僕は、役者としては出たことのない演目。振付を藤間勘十郎先生にお願いしました。文楽人形と人間では、動きが違うことがあります。振付をそのまま踏襲するところと、振付の意図を踏襲するためにあえて人形遣いさんに動きを合わせるところも出てくるかと思います。お互いの良さを活かせる形を目指し、たしかめながら作ってまいります」
右近は、清元という歌舞伎の伴奏音楽の家に生まれ、清元栄寿太夫の名前を継ぎ、歌舞伎俳優と二足の草鞋で活動する。
「『かさね』は音羽屋にゆかりの演目です。清元の大曲でもあり大切に受け継がれてきた作品には、歌舞伎役者としても清元としても、愛着を感じます」
今回の公演で、人形の台詞は父の清元延寿太夫が担い、三味線方として兄・清元昂洋も出演する。右近のアイデアとルーツと重なる『かさね』の、作品としての魅力とは。
「与右衛門には、どこか共感してしまう、どうしても憎めない魅力がある。それが僕がこの作品を愛する理由であり、お客様に愛され今日まで演目が受け継がれてきた理由だと思っています。自主公演は、もちろん僕の魅力を知っていただくためのものですが、僕を通して歌舞伎の面白さを感じていただけたらという思いです」
人形と人間の共演は、過去になかったわけではない。
「印象に残っているのは、辻村ジュサブローさんと坂東玉三郎のおにいさんがなさった『二人椀久』です。以前、映像でみたのですが、色っぽいんですよ……。身体のサイズが違うので『南くんの恋人』みたいになっちゃうのですが(会場に笑い。右近は真剣そのもの)妙に色っぽくて、人間同士以上にエロいんです。その時、なんとなく人形と人間が一緒にやるなら、色事だなと思いました」
その思いがベースにあり、自身のルーツ、音羽屋と縁のある『かさね』が好きで、立役も女方も両方やりたいと思っていた。そして簑紫郎と出会った。
「何となく思っていたことに必要なピースが、パズルのようにバババッと埋まってパチンとはまった瞬間でした。『研の會』って、こういうことがよくあるんです」
簑紫郎の人形ともすでに対面した。
「簑紫郎さんの魂が幽体離脱している物体と一緒に何かをしているようで。かさねの鬘と僕の肌が触れた時、まぎれもなく恋人の感覚。その不思議な感覚を『かさね』のストーリーにのせてお見せしたいです。与右衛門は20代半ばでむずかしい大人の色気が必要です。その意味では、3年の時間があったからこその狂言立てになっていると思います」
■『源平布引滝』の『実盛物語』
『実盛物語』の実盛は初役となるが、2001年には、当時8歳で子役の大役・太郎吉を勤めた。実盛は中村勘三郎だった。右近の名前になり、尾上菊五郎の実盛もそばで見ている。
「2度ほど、音羽屋のおじさま(菊五郎)の実盛を見させていただき、おじさまが実盛になっていくお仕度を間近で拝見しました。どんな役なのかを色々とうかがいました。実盛は初役ですので、今回あらためておじさまに教えていただく時間をいただき、取り組みます」
実盛の人物像については「ジェントルマン」とコメント。
「実盛は、器が大きく男らしい理想的な男性の役です。歌舞伎の時代物の中でも、実盛の『生締(なまじめ)』と呼ばれる鬘は、ジェントルマンの象徴。芝居として台詞もやることも多く、見せ場も長い。それは役の魅力ですが、一度出たら袖に引っ込むことがありませんので、ずっと舞台にいる。菊五郎のおじさまは『なかなかしんどい、えらい役だよ』とおっしゃっていました」
生締はニンとは言えない役どころ。それでも「やはりカッコいいなと憧れる、立役志向なところがあります。実盛ならば、人情味もありソフトな部分もあります。自主公演だからこそ」とチャレンジへの思いを語る。「女方の先輩にはがっかりされるのですが」とも明かし、笑っていた。
第六回『研の會』ビジュアル
実盛は、もと源氏に仕えていながら、今は平家方に身をおいている。
「源氏と平家の狭間に生きている役柄です。口にはできない思いを秘めている。でも恩と義理と人情を貫く人物です。菊五郎のおじさまには、野暮だから言葉にはしないけれども、何かあればちゃんと伝えてくださる粋な格好良さを感じます。おじさまと実盛で、印象が重なるところです。僕も勉強させていただければと思います」
キャスティングにも、自主公演だからこその思い入れがある。
「小よしを勤めてくださる梅花さんと九郎助の市蔵さんは、僕が太郎吉を勤めたときの小よしと九郎助でもあるんです。当時、僕は本名の岡村研佑で舞台に上がっていました。おふたりも当時とは名前が変わりましたが、自分が実盛をやるときには、必ずこのお二人にお願いしたいと考えていました」
太郎吉は、亀三郎が演じる。
「歌舞伎って、毎日決まった型で同じことをして見えても、お客さんの空気や役者のコンディション、気候の変化でさえ日々揺れ動き、まるで違うものが出来上がります。子供ながらに、それを初めて体感したのがこの演目。今回は亀三郎くんに太郎吉をお願いします。僕が子供の頃、先輩方はこういう感じで僕をみてくださっていたのだなと思い出します」
瀬尾十郎役は、彦三郎。
「前回の自主公演で『弁天娘女男白浪』をやらせていただいた時、お力添えくださったのが彦三郎のおにいさんです。3年がたち今年5月、歌舞伎座の本興行で僕は弁天小僧をやらせていただきました。自主公演が、本興行に繋がることもあるのだと体感しました。そのきっかけの公演に出ていただいたおにいさんに、今回もまた出ていただける。嬉しいことです」
小万役の壱太郎とは、『ART歌舞伎』などプライベートでも親しい仲だ。
「日々お互いの状況を交換し合う大切な先輩であり、大事な仲間だと思っています。登場シーンこそ多くありませんが、とても重要な小万をやっていただきます」
葵御前は、菊五郎の弟子の女方・菊三呂。
「世界観を作る上で重要な、位の高い役。そして菊三呂さんは、僕が子供のときから乳母のように手取り足取り世話をしてくれた大切な方です。一気に紹介させていただきましたが、僕の中で大切な先輩たち、仲間たちに出ていただきます。これぞ『研の會』という感覚です」
前回の『研の會』の制作発表では、『酔奴』にちなみ竹馬を披露した右近。
「今回の実盛は、最後に馬に乗ります。そこで今日は、馬に乗って登場したかったところですが、会場の入口の高さがちょっと……予算もかかりますし(笑)」
前回は額に弁天小僧の傷、洋装で竹馬と盛りだくさん。今回はおちついた羽織袴姿。
■童心を忘れず責任をもち、分別のある子どもでいたい
3月以降、毎月歌舞伎座の舞台に立ち、現在はTVドラマ『NICE FLIGHT!』にも出演。10月からはコロナ禍で上演がわなかったミュージカル『ジャージー・ボーイズ』がいよいよ上演される。切り替えのむずかしさを問われると「歌舞伎は自分の中にずっと流れているもの」「歌舞伎と離れる感覚はない」という。
「自主公演としては、規模の大きな演目をやらせていただきます。今の自分にしかできない自主公演があると思いますし、状況的に問題がなくなった今、忙しさを理由にして毎年やっていた自主公演をやらないという発想はありませんでした。本当に歌舞伎が好きなんだなあ~、自分! と思います(笑)」
歌舞伎以外の仕事の機会があることに感謝を述べ、「歌舞伎と歌舞伎以外のことを循環できるのは大変ありがたいこと。ドラマの撮影をしている時はドラマ俳優のつもりで、歌舞伎のことはすっかり頭から抜けます。自分の中ではバランスをとれています」と頼もしいコメントも。5月の終わりに30歳になった。これからの抱負は。
「歌舞伎役者として何かを発信するとき、世の中にどう映るか。歌舞伎に迷惑をかけていないか。歌舞伎って面白そうだと思ってもらえるか。歌舞伎という酸素のような家族のような、恋人のような母のような存在を、思い続けて生きていきたいからこそ、自分だけの問題ではなく、歌舞伎役者としての責任感を持っていかなくてはいけないと思うようになりました」
しかし、あくまで「童心を忘れずに」。
「僕がこんなに面白いと思うのだから、皆にとっても面白くないわけがない! という客観性ゼロの強みは持ちつつ、その実現には誰が必要か。どうしたら喜んでもらえるか。誰かを傷つけてないか。果たしてプラスになるのかも考える。分別のある子供になっていこうという覚悟が強まりました」
第六回『研の會』は国立劇場 小劇場にて、8月22日、23日の公演。
「自主公演は正直大変です。過去には『続けていて偉いね』と言われ、内心『おれ、偉いな』と思った時期もありました(笑)。でも、それができるのはスタッフや出演してくださる方がいてこそ。“自主”公演なんて言っても、自分だけでできるものではないんですよね。良い意味で他力本願。出会った人に頼りながら、自分がキラキラ輝く。6回目にして、『主役をやらせてもらっている』という感覚が一層強くなりました。ただしお客様に対しては、『俺が主役だ!』と存分にキラキラしたところをおみせして、楽しんでいただきたいなと思います」
取材・文・撮影=塚田史香

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