松本幸四郎「罰を与えます」ドラマの
セリフで登場ーー三演目で初役の『七
月大歌舞伎』共演者や大阪への印象を
語る

大阪の夏の始まりを告げる風物詩『関西・歌舞伎を愛する会 第三十回 七月大歌舞伎』。今年は7月3日(日)より大阪松竹座にて開幕、昼の部で「八重桐廓噺(やえぎりくるわばなし) 嫗山姥(こもちやまんば)」と「浮かれ心中」を、夜の部では「堀川波の鼓」と「祇園恋づくし」を上演する。先日、大阪市内で『七月大歌舞伎』の合同取材会を行った松本幸四郎。SPICEでは、取材会の模様と個別インタビューを紹介する。
松本幸四郎
●三演目全てが初役「プレッシャーを楽しみに変えて演じる」●
取材会では「NEXホールディングスCEO阿久津晃です。娘が生きていたとは私自身もびっくりで、どちらかというとお医者さんがすごい人だったんじゃないかというふうに思っております。大阪松竹座に来ていただかないと……罰を与えます」と、ドラマ『マイファミリー』での役のセリフを第一声に放ち、笑いを誘った幸四郎。和やかな雰囲気の中、取材会がスタートした。
昼の部の「嫗山姥」では煙草屋源七実は坂田蔵人時行役、「浮かれ心中」では太助役、夜の部の「祇園恋づくし」で指物師留五郎と、芸妓染香の二役を演じる幸四郎。いずれも初役だ。
「昼の部の「嫗山姥」は義太夫に乗せてのお芝居で、歌舞伎らしい歌舞伎、それを生で観たという実感を一番味わっていただけると思います。自分自身の役は、典型的な「事実は〇〇であった」という役ですけれども、はっきりした役の演じ分け、しっかり歌舞伎をするということをテーマに挑みたいと思います。「浮かれ心中」は井上ひさしさん原作で、とても見やすい作品です。そこには矛盾しているからこそ人間らしいという人物が描かれていて、笑って最後はホロッとできるような、また考えさせられるような芝居で、好きな作品です。また、久々に勘九郎くん、七之助くんと一緒にお芝居ができることも楽しみにしています」。
松本幸四郎
夜の部で出演する「祇園恋づくし」は2012年に大阪松竹座の「大當り伏見の富くじ」で共演した直後に、中村鴈治郎から「ふたりでやりたいね」と声をかけられたという。「それ以来、この作品のことをずっと思っていました。今回、「祇園恋づくし」を上演する時ではないかと直感的に思って、ぜひやらせていただきたいと。10年越しに実現しました。今回は大場正昭さんに演出していただきます。鴈治郎のお兄さんとじゃないとできないものが新たに誕生することを目指したいと思います」と意気込んだ。
指物師留五郎、芸妓染香の二役については、「役者にとってはとてもやりがいがある」と話す。「留五郎は江戸の人間の代表として登場しているような気がするので、いかに江戸のかっこよさを出せるか。染香は、芸妓の格好ができるのがすごく嬉しくて、楽しみで。どれだけかわいくなるんだろうと、そういう自分しか想像していないです(笑)。すごいかわいい(笑)。歌舞伎座では中村七之助くんがやっていましたが、七之助くんはきれい。僕はきれいでかわいい。そういう染香にしていただけると、演出の大場さんに期待しています(笑)」。
「浮かれ心中」と「祇園恋づくし」、いずれも笑いの要素が多い作品だ。「どちらも一生懸命生きている人たちのお話ではないかと思います。だからこそおもしろい。「浮かれ心中」は、「決していいことではないけどそうだよね、そういうふうに思うのも仕方がない。こういうことを僕もしちゃうかも」と共感できる作品。「祇園恋づくし」は、京都対江戸という楽しみ方ができるお芝居です」。
松本幸四郎
関西での歌舞伎公演が非常に厳しかった1970年代。1978年に行政、経済界、労働界、学者や文化人、市民らが上方での歌舞伎復興の願いを込めて「関西で歌舞伎を育てる会」を結成した。その後、1992年に名称を「関西・歌舞伎を愛する会」に変更。育てる会結成以降、「関西で歌舞伎をもっと盛んにし、次代に伝えて行こう」という趣旨のもと、近年では毎年7月に大阪で歌舞伎公演を実施している。今はコロナ禍で実現がわないが、昭和54年に復活した俳優が参加する「船乗り込み」も浪速の夏の風物詩として定着している。
幸四郎は「関西で歌舞伎を育てる会」の時代から出演しており、「役者として育てていただいた」と振り返る。それだけに、「7月の歌舞伎公演にまた出させていただけるというのは、特別な思いがあります」と気持ちを込めた。
取材会の最後に幸四郎は「7月の大阪松竹座で楽しい時間を過ごしていただくため、精一杯のおもてなしをして、一座、劇場一同お待ちしております。三演目全部が初役というのも久しぶりですが、そのプレッシャーを楽しみに変えて取り組んでいますので、一座が持つ歌舞伎のパワーが皆さんに伝わるように進めたいと思っています」といざなった。
●大阪ならではの他にはない緊張感「セリフを聞かれている」●
松本幸四郎
続いてはSPICE個別インタビュー。出演する三演目について、また、コロナ禍において舞台に立つ意味などを聞いた。
――「嫗山姥」では片岡孝太郎さんと共演されます。孝太郎さんは幸四郎さんにとってどんな存在ですか?
先輩ですけれども、以前はよくご一緒させていただいたので、昔話ができる数少ない役者さんのひとりですよね。時には夫婦だったり、恋人だったり、(孝太郎さんは)女方さんですから、男女での役が多い。ふたりで一緒に怒られたりということもありました(笑)。それこそ『七月大歌舞伎』も、中座の時代も、大阪松竹座になってからも、7月は必ず一緒でしたね。
――「浮かれ心中」は井上ひさしさんの作品で、笑いが多いとのことですが、幸四郎さんは特に上方喜劇にご出演されたときはファンサービスのような、お客さんの笑いを誘うセリフをおっしゃることが多い印象です。
そうですね、大阪はすごく役者のセリフを聞かれている印象があります。もちろん色彩、音楽もありますが、お客様は役者の言葉を聞いてお芝居の流れに乗っかっているイメージがすごくあるので、ちょっとした言葉にも反応があるところかなと思いますね。これは元々浄瑠璃があったり、しゃべりの文化がとても発達した場所でもあるのかなと思います。
――大阪では「聞かれている」ことを意識することもありますか?
緊張感はありますね。「聞かれている」とすごく強く感じられるので、他にはない緊張があったりします。でも、本当に細かいことでも反応していただけることで、聞いていただけるという安心感を実感できるところでもあります。
松本幸四郎
―ーでは、「祇園恋づくし」ですが、なぜ鴈治郎さんは「ふたりでやりたいね」とおっしゃったんでしょう?
何ででしょうね。「大當り伏見の富くじ」は「5秒に一回は絶対笑っていただくものを」と、喜劇と決めて作ったところがあって。いろんなネタ、展開で笑いをどうやって作れるか。これは大阪松竹座で二度、上演させていただいていますが、決して「大阪は笑いのお芝居が好き」という単純な発想ではありません。「伏見の富くじ」は東京の笑いを大阪でやるつもりでいましたので。でも笑いのテンポとか、間合いでいうと、鴈治郎のお兄さんは上方、僕は東京で江戸っ子を思いっきり演じる役どころでもあったので、上方と江戸での掛け合いのお芝居ができるのではないかと思われたのかもしれません。上方と江戸というお互いの特技を使えるお芝居として、「祇園恋づくし」を思いつかれたのではないかなと思います。
――「浮かれ心中」、「祇園恋づくし」では中村七之助さんとも共演されます。今度、SPICEでも七之助さんに取材をさせていただくのですが、七之助さんの印象を教えてください。
静かな印象はありますけど、すごく熱い人ですから。何かこう、入り込んでいるときのパワーは、ある意味怖さといいますか、鋭さを強烈に感じる役者さんですね。
松本幸四郎
――取材会でも、七之助さんの女方はきれいで、幸四郎さんはきれいでかわいいとおっしゃっていました。「かわいい」という部分が、七之助さんにはないものを出すぞという意気込みでもあるのでしょうか。
そうですね(笑)、「祇園恋づくし」では2015年に留五郎役を演じた勘九郎くんも出てきますし、染香を演じていた七之助くんにも出てもらえるしという、それはなかなかあり得ないことです。普通では考えられない座組でやれるので、自分の越えなければいけないハードルを思い切って高くして、そのようにお伝えしました(笑)。
――幸四郎さんは、ご自身の女方はどう思われていますか?
まあ……美人は美人じゃないですか(笑)。もうそれは「いちびり」になるしかないですね。
――「嫗山姥」以外は大場正昭さんが演出をされます。大場さんの演出の特長はどんなところにあるのでしょうか?
人物を深く造形されます。それこそ井上ひさしさんの絶筆となった「東慶寺花だより」という作品を2014年に歌舞伎にしたときも演出をしていただきました。まずは役者が気持ちよくやるという部分を理解して、その上で作品の器になじませていくという感じですかね。細かく指示を出されるという感じではないのですが、いつの間にかひとつの器にしっかりと色分けされて入っているという感じです。

松本幸四郎
――歌舞伎における演出家の存在についてはどう思われますか?
それはこれからどんどん必要だと思いますね。歌舞伎では、主役には全部、取り仕切る役目があるとは言われていますけれども、完全に舞台には立たない演出家の目、作品全体のドラマを隈なく見ていただくという立場の方は必要になってくると思います。
――歌舞伎でもドラマでも、演じるうえで俳優として大事にされていることはありますか?
演じるということでは、どれも一緒だと思うんですよね。ひとつの作品のひとつの役を演じるのは、ドラマであろうが、歌舞伎であろうが、同じことだと思います。ただ、その表現方法の違いで歌舞伎になったり、映像になったりするのではないかと。なので、「役を演じる」ということを忘れないことですね。歌舞伎の場合はいろんな型があるので、整理整頓は得意かもしれないです。「こういうときはこの位置にいたらいい」とか「ここではこうやって引っ込む」とか、そういう型がありますけど、ただ、そこにはめ込んでいったところで感動するものにはならないですよね。それはやっぱり役を演じていないといけないので。洗練された型や技術はできなきゃいけないとは思いますけど、そればかりに頼るのではなく、それを踏まえた上で役になりきることが大事かなと思います。役を演じる。当たり前のことですけど、役を演じるということを忘れないで務めるのは、歌舞伎でも映像でも同じことだと思います。
松本幸四郎
――昨今、配信での『図夢(ズーム)歌舞伎』など様々な試みをされていましたが、今、改めて舞台に立つことについて、どう思われますか?
映像に関しては、当時そこでしか歌舞伎をする場所がなかったので、新しい歌舞伎の見せ方の誕生でもあったと思います。劇場に来ていただいて、生でお芝居をお見せすることと、配信で歌舞伎をお見せすること、これは僕は共存できるものだと思うんです。映像になると劇場に人が来ないのではという不安の声は必ず上がるし、比較的多いです。でも、それぞれにしか味わえないものがあるので、その両方が存在できると。ただ、毎日、同じことをお見せするのであれば、映像の方がいいです。絶対に間違いがないから。もちろん間違えてはいけないんですけども、でも舞台は生だからこそ「今日も同じモチベーションで、昨日以上のことをやるんだ」という思いで立つわけで。その気概は生の舞台でないと感じられないことだと思います。
――取材会で上方のお芝居の魅力について、「主人公は、二枚目だけどお金がないとか、どこか欠点や短所がある」とおっしゃっていました。幸四郎さんの短所はどういったところでしょうか?
計画を立てるのは好きなんですけど、実行しないところですね。計画を立てるのが好きなだけで。よく、何かいろいろ考えてそうに見られますが、決断は思いつき、みたいなね、そういうタイプです(笑)。
――では最後の質問です。「嫗山姥」は幸四郎さん演じる時行の魂が、孝太郎さん演じる八重桐に乗り移りますが、もし孝太郎さんに乗り移るとしたら、どんなことをしたいですか?
そうですね。孝太郎さんはとてもマメな方なので、そういうところは自分にはないので、計画を立てるのは好きだけど実行しないという点でも、そういうマメな部分を得たことでできることがたくさんあるんじゃないかなと思います(笑)。
松本幸四郎
取材・文=Iwamoto.K 撮影=福家信哉

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