『Aladdin Sane』/David Bowie

『Aladdin Sane』/David Bowie

異能の才を振りまいた
デヴィッド・ボウイのグラムロック
期の名作『Aladdin Sane』

ボウイによって新しいロックが示される

 それはメイクや奇抜な衣装、演劇的なステージングといったビジュアル的な要素だけでなく、もちろん音楽面でも示された。『Rise & Fall of Ziggy Stardust』はとりわけ明確にコンセプトを立て、ストーリー仕立てでアルバムが仕上げられていた。このトータルコンセプトの手法はビートルズが『サージェント・ペパー~』で示したものだし、それに習ってストーンズもキンクスも、ピンク・フロイド、プリティ・シングスもと、多くのアーティストがその手法を取り入れてアルバムを制作し、取り立てて真新しいものではなくなっていた。歌われる内容も、退廃的なものから終末論、それまでタブー視されてきたジェンダーの領域に踏み込み、同性愛の世界が描かれるなど、美しいものとグロテスクなものが表裏一体であるかのように、それまでの人々の価値観を一変させるものになっていた。そうしたテーマを掲げたアルバムを制作し、ラウドなロックンロールに昇華し、ビジュアルを合成させ、それをショーとしてライブで再現することで、自ら作り上げたイメージを体現していく。そこまで徹底したスタイルは、自身もその範疇に入れられたグラムロック勢も見渡しても、やれていたのはボウイくらいのものだったろう。

 『Aladdin Sane』はアルバムとしてはコンセプト作ではない。が、バンドとしての一体感は増し、加えて粒ぞろいの楽曲が揃い、この時期のボウイの勢いを強烈に感じさせる作品だ。コンセプトはないと書いたけれど、アルバムに収録された曲にはアメリカ各地の地名が微妙な案配で散りばめられており、異星人ジギーがアメリカを旅してみれば…みたいな視点で歌詞は書かれたのではないかと推測している。ちなみに、次作の『Diamond Dogs』では再び、ジョージ・オーウェルの小説「1984」をモチーフにしたコンセプト作が発表されるのだが。
 バックアップ・ミュージシャンは、前作と同様スパイダース・フロム・マース(ミック・ロンソン / Guitar、トレヴァー・ボルダー / Bass、ウッディ・ウッドマンジー / Drums)が務める他、ジャズ畑のピアニスト、マイク・ガースンがゲスト参加している。特にガースンは全編にわたって大活躍で、彼のピアノによりアルバムを華麗なものにしている。ボウイと並んで人気を獲得しつつあったミック・ロンソンのギターもキレ味が冴え、いかにもスターらしいきらびやかなサウンドを作っている。
 ボウイの音楽的な背景についてはあまり語られることがないが、個人的にはエルヴィスやリトル・リチャード、バディ・ホリー、エディ・コクランらロカビリー勢、ボブ・ディラン、英国トラッドなどの影響を感じたりする。最初に手にした楽器がアルト・サックスということなので、チャーリー・パーカーなどのジャズも好きなのだろうかと。されど、もっとも影響を受けているのはたぶん、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド(以下VU)だろう。
 VUの音楽を退廃的な美学に満ちたサウンドと簡単に言ってしまうわけにはいかない。そうした世間の形容をリーダーであったルー・リードは鼻で笑っていただろうから。シンプルな言い方で言えば、ズル賢いガレージロックとでも言っておこうか。とにかく、デヴィッド・ボウイの音楽の根底には常にVUの醸し出していた死や闇、美しさを引きずっているように思える。そう言えば、ルー・リードの名作『Berlin』も『Aladdin Sane』とほぼ同時期にリリースされている。両作品というよりは、両者には微妙に引き合う相関関係がありそうなのだが、この前年にリリースされたルー・リードの2ndソロ作『Transformer』は彼の大出世作であり、VU時代よりもいっそう詩人として、またシンガーソングライターとしての豊かな素養を備えたルー・リードの才能に目を付け、そのプロデュースをミック・ロンソンとともに手がけたボウイの手腕は高く評価されるべきだろう。

OKMusic編集部

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