久保田利伸の1stアルバム
『SHAKE IT PARADISE』から
日本でのブラックミュージックの
隆盛は始まった!

『SHAKE IT PARADISE』では
ブラックミュージックをポップに昇華

 その久保田利伸のデビュー作、1986年に発表された1stアルバム『SHAKE IT PARADISE』。この作品がリリースされた時の衝撃たるや今も喩えようもない…とか言えれば、ベタながらもこれは流暢な文章になるのだろうが、個人的にはまったくそういう捉え方をしておらず、すごいシンガーソングライターが現れたとしか思ってなかった。決して興味がなかったわけではなく、このアルバムはものすごく聴いた。それこそダビングしたテープが擦り切れるほど聴いたが、当時は──恥ずかしながら…と言うべきか、これが硬直化した邦楽シーンをブレイクスルーするブラックミュージックだという認識は全然なかったのである。その頃の筆者は日本のパンクロックばかり聴いて、大して洋楽に興味もなかったので、今となってはそれもむべなるかな…とも思うが、逆に言えば、洋楽やブラックミュージックへの造詣がなくとも、『SHAKE IT PARADISE』は素直に“カッコ良!”と思えるだけの傑作だったと言い換えることもできるのではないか。
 久保田利伸の成功は、その音楽性はブラックミュージックでありながら、それを過度に押し出すことなかったことが要因ではなかったかとも思う。久保田の作品はブラックミュージックのアクの強さはあまり感じられず、とにかくキャッチーで聴きやすい。この辺は、もちろん自らの原点であると公言するスティーヴィー・ワンダーの影響もあるだろうが、デビュー前に中山美穂、小泉今日子、荻野目洋子ら、歌謡曲のコンポーザーをしていたことも関係しているのではないかと筆者は邪推する。久保田はデビューの前年、田原俊彦に「It's BAD」という楽曲を提供しているが、これはポップミュージックで初めて日本語のラップを取り入れた楽曲と言われている。トップアイドルにラップをさせた当時のスタッフの懐の深さにも敬服するが、アイドルソングにヒップホップ要素を注入し、しっかりとポップに仕上げた久保田利伸のセンスはさすがと言わざるを得ないし、これらの体験が自身のデビューに大きく活きたに違いない。デビューシングルでもあり、『SHAKE IT PARADISE』にも収録されている「失意のダウンタウン」にもラップパートがあるが、所謂Cメロで、若干音圧が下がった印象がある上にコーラスが被さっているので、それほど目立たない仕様になっているのは意図的ではなかったかと思う。
 さて、肝心のアルバム『SHAKE IT PARADISE』の中身。久々に聴くとこのドンシャリサウンドは否が応にも80年代を感じざるを得ないが(そんな歌謡曲テイストも上記の理由で完全肯定するが)、収録全11曲、まったく捨て曲がない印象だ。とにかくメロディーが素晴らしい。バラード「Missing」「Dedicate (To M.E.)」「For You ~伝えきれなくて」だけでなく、アップもミドルもメロディーに起伏があるので聴いていて飽きないのだ。また、どの楽曲もサビまでの展開がドラマティックである。開放感の強い「流星のサドル」「失意のダウンタウン」はもちろんのこと、メロディー自体はメジャーではないタイトルチューン「Shake it Paradise」や「Somebody's Sorrow」でのBメロからややタメがあってからのサビは──ベタっちゃベタだが、圧倒的に気持ちがいい。「To The Party」はループミュージック調でファンクらしい単調さがなくもないのだが、それでもしっかりとCメロを入れてある辺りが心憎い。曲順もいい。これはもう完璧だ。「流星のサドル」で始まり、「Missing」を挟み、文字通りパーティチューン「To The Party」を経て、「Dedicate (To M.E.)」「Inside カーニバル」「For You ~伝えきれなくて」での締めくくりは、正しきエンターテインメントといった様相だ。
 アルバム『SHAKE IT PARADISE』でまさに流星の如くシーンを席巻した久保田利伸のその後の活躍は語るまでもないだろう。「流星のサドル」の歌詞《夜を越えてゆくのさ 流星のサドルで ゴールなんてなくていいのさ 星をつかもう》になぞらえれば、夜(=それまでブラックミュージック不毛だった日本の音楽シーン)を越えて、星を掴んだ。しかも、まさにそれがゴールなどではなく、彼が開拓したシーンは今も無限とも思える広がりを見せている。そして、久保田利伸本人も今もなおバリバリの現役として活躍中だ。2016年のデビュー30週年を目前に来年2015年には大規模な全国ツアーを行なう予定で、これからの動向にもますます目が離せないと言える。走り続けるレジェンドである。

著者:帆苅竜太郎

OKMusic編集部

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